●僕にとっては初めての海外ツアー。
目ざすところは伝説のクライマー故ヴォルガン・ギューリッヒが名をはせたドイツ・フランケンユーラー。
ポケット主体でちょっとマニアックなイメージがある。
同行していただくのは(と、いうか連れていってもらうのは)スーパークライマーのM氏と四国最強の女性クライマーTさん。
2人とも海外でのクライミング経験が豊富である。
強ツヨメンバーに埋没するのは承知のうえでツアーに参加させてもらった。
今回は飛行機やレンタカーの手配をはじめ、現地の宿の手配、生活面などすべてに「おんぶにだっこ」のツアーとなった。
おまけにツアー前に腰を痛めて、参加そのものが危うくなったが、
2人のフォローによってドイツ生活を無事に過ごすことができ、それなりのクライミングも楽しめた。
M氏とTさんには、この場を借りて改めて感謝したいと思う。
●2009年7月30日(木)【出発、ドイツ行きに暗雲が】
出発の10日前に痛めた腰痛が電車で再発。
何とか関空にたどり着き、メンバーと合流して機中の人となる。
フランクフルト行きの直行便であったが、狭いエコノミーに閉じこめられ、腰の痛みと格闘する。
機内食や機内酒にもほとんど手をつけずに悶々とした14時間を過ごす。
●2009年7月30日(木)【そしてドイツに到着】 ※ ここからドイツ時間で表示。
ドイツと日本の時差は通常は8時間であるが、この季節はサマータイム制をとっているので7時間の時差となる。
フランクフルトに到着。
入国手続き後、Tさんがネット予約したHertz〔レンタカー〕へ移動する。
空港のはずれにあるため歩くのがつらい。
借りた車はフィアット・パンダ。エアコン無しのマニュアル車である。
ここでは一番安い車種であった。
オートマチックやエアコンをつけると2倍ほどの金額になるらしい。
M氏の運転で市街地を抜け、すぐにアウトバーンに入る。
めざすはM氏が手配していた最初の宿FAMILOTELである。
ユーラー地方真ん中のSpiesという町にあり、どこの岩場に行くのにも何かと便利な立地にある。
後部座席に横たわったまま車窓を楽しむ余裕もなく、ひたすら車の天井を見ていた。
途中で一度だけSAに寄り、4時間程で到着。が、ここで問題発生。
なんと予約が入っておらず、すでに部屋も満室状態になっていた。
受付のお兄さんに尋ねると電子メールだけでなく、最後に電話で確認をしなければならないとのことであった。
そんなことわかるはずがない。
しかたなく車で1分程のところの宿を紹介してもらうことになった。
しかし、これが大正解。こぢんまりとしたペンション風の静かな宿。
突然の来客にもかかわらず、気さくでキュートなマダムは私たちを快く受け入れてくれたのであった。
おまけに「重い」夕食(「軽く」と、頼んだはずであったが…。サービス精神が旺盛なのである)まで用意してくれた。
この宿は基本的に食事が中心で泊まりは週末のみとのことであるが、
融通もきき何かとリクエストに応じてくれそうな感じだ。
結局3泊お世話になった。次に行く機会があれば、再度利用したいと思う。
宿「Hutzerstub'n」
1泊朝食付きで€34、ディナーもアルコールを入れて1人€10で用意してくれた。英語もOK
●7月31日(金)【クライミング開始】 Weisensteinの岩場
朝起きると腰が痛くてベッドから起き上がれない。
とりあえず宿から車で20分程のところにあるWeisensteinの岩場にいく。
この岩場は通称「食パン岩」といい、日本人クライマーが最初に訪れるエリアである。
道路のすぐ脇にあり、非常にわかりやすい。
岩場は隣り合った2つのエリアから構成されているが、
向かって右側のエリアの上部がハングしていて食パンのようである。
日当たりがよくて初心者から中級者まで楽しめる。
M氏とTさんは初日にもかかわらず、さっそく成果をだしていた。
私は見学だけのつもりであったが、岩を前に気持ちを抑えることができず、
トップロープで2本と簡単なルート1本をリードする。
足腰が思うように使えず、腕に頼るクライミングになってしまった。
今回のツアーではクライミングを半ばあきらめていたので、クライミングができたことを素直に喜べた。
この日は早々に切り上げ、トポを仕入れるためにBetzensteinのクライミングショップ(Rock Store)に行く。
小さな店であるが品揃えはよい。
数種類のトポが手に入る。上下2巻に分かれ、最もアプローチ情報と岩図が詳細なトポを入手した。
今後に訪ねる岩場の利便性を考え、途中々々に寄った町で次の宿さがしをした。
●8月1日(土) Obere Gosweinsteiner Wandeの岩場
Gosweinsteinerの町から歩いて10分ほどのところにあるエリア。
日当たりは悪く、一日中薄暗い。
ザウタンツなどの歴史的なルートがある。
遠くに観光用の汽車が走るのが見える。
汽笛が鳴るたびに遠くで歓声があがる。
トップロープで3本触る。
最後にM氏がRPしたザウタンツにトップロープトライ。
スケールは25メートル程で中間部の細かいフェースが核心。クリップも悪そうである。
体感は12cくらいに感じた。何度かトライすれば登れそうな感触を得た。
※ Bunte
Wand(7),Haringer Ged. -Weg(7-),Sautantz(9-)すべてトップロープ
●8月2日(日) レスト日でバイロイト観光
リヒャルト・ワグナーゆかりのバイロイトへ。
途中のPlechにあるガストホフで宿泊交渉する。
料金その他の条件がよく、すぐに交渉成立。
バイロイトではちょうど音楽祭が開かれていて、
ワグナーのオペラを鑑賞するためにやってきた紳士淑女があちこちで見られた。
このチケットをゲットするは至難の技であるらしい。
夜はPlechの教会でちょっとしたコンサートを鑑賞する。
ギターやチェロの演奏に哀愁のある歌がまじり、改めてドイツに来ていることを実感した。
基本は男性と女性の掛けあいコントであるが、最後に「落ち」があって、どっと笑いが起こる。
ドイツ語はさっぱりわからなかったが雰囲気を楽しめた。
ワグナーといい、夜のミニコンサートといい、この日は音楽にひたれる1日となった。
宿「Landgasthof “Zur Trube”」 シングル朝食付で1泊€23
Plechには食料品とアルコールが手に入る小さな店が一軒ある。
朝の開店は早いが夕方は6時で閉店する。
日曜日は「安息日」で、たいがいの店が休みになるので注意。
●8月3日(月) Maximilianswandの岩場
腰の状態もましになってきた。
ベッドのクッションも体に合い寝起きも楽になっている。
この日はMaximilianswandに行く。
このエリアのすぐ近くにギューリッヒや小山田大ちゃんの再登で知られるアクシオンディレクトがある。
クライミングをする前に訪ねる。
Waldkopfという岩場で林道の駐車場から歩いて10分くらいのところにある。
少しわかりにくい。
木立の中で薄暗く、お世辞にもきれいとはいえない。
上部が大きくかぶって、ところどころに小さなポケットが見える。
「ハァ〜」とため息をついて、写真に収める。もちろん見るだけである。
Maximilianswandは駐車場のすくそばにある。いくつかのエリアから構成され、ルート数も多い。
初心者から上級者まで楽しむことのできる人気エリアである。
名クラシックのウォール・ストリートやチェイシン・ザ・トレインもこのエリアにある。
多くのクライマーでにぎわい、様々な国の言葉が飛び交っていた。
腰の具合もましになってきたのでリードに挑戦する。
※ Zwiespalt(7)FL , Ansbacher Weg(7+)OS , Abheber(7+)3×
●8月4日(火) Roter Fels とStadeltenneの岩場
Roter Felsは日当たりがよく、今回訪ねたなかではもっとも長いエリアであった。
壁自体が大きいので、さほど長くは見えないが、登ってみると長さを実感する。
このエリアを含めて2月1日から7月31日まで立ち入れないエリアがいくつかある。
ファルコン(はやぶさ)が巣作りをするためである。
壁のところどころに意味不明の金属箱が設置されていた。何に使うのだろうか?
37メートルの三ツ星ルートSchaumschlager(7-)に挑戦。
最後がハングとなり電池が切れそうになったが何とかOS。
ロワーダウンで降りるが、壁の真ん中で60mロープが足りなくなる。
ボルト一本に付けかえて降りるが、ロープの処理にも手間取って緊張した。 それぞれが1本ずつ登った後にStadeltenneに移動。
木立の中のこぢんまりとしたエリアで木漏れ日が心地よい。風がよく通りって肌寒い。
他のパーティにはダウンジャケットの人もいた。
※ Stadeltenne(8-)RP ,Alltag in Franken(7+)OS
●8月5日(水) レスト日でニュールンベルク観光
いくつかの巨大な教会やカイザーブルク(皇帝の城)、
ルネサンス期の芸術家アルフレッド・デューラーの家などを巡る。
今回訪れたなかでは最も大きな町でショッピングなども楽しめる。
小さな地図専門店にはトポも置いていた。
帰り際にナチス党大会が開かれたドク・ツェントルムを車窓から眺めた。
●8月6日(木) CastellwandとKuhlochの岩場
以前より手配していたGosweinsteinerにある宿に移動。荷物を置いて岩場に出かける。 Castellwandは林道から見える。
駐車場から歩いてすぐでやや薄暗い。
林道の反対側には日当たりのよいMittelbergwandがある。
最高グレード更新! といっても8ノーマル。
※ Kauperkante(6+)OS , Heavy Metal Landler(8)RP
午後からK uhlochに移動。
日当たりの悪いエリアであるが家族連れのパーティでにぎわっていた。
全体的にボルトが少なく、ランナウトするルートが多い。自信のない人はトップロープでトライしていた。
※ Ab geht die Post(8+)1× 上まで抜けられずに敗退。
Putzteufel(7+)1× あまり登られておらず、砂や苔、蜘蛛の巣などできたない。
適当なルートがなかったので取りついたが、上部のランナウトに肝を冷やした。あまりお勧めできない。
Gosweinsteinerは小さなお城と立派な教会のある町でちょっとした観光地になっている。
私たちが泊まった宿は教会のすぐ隣で、鐘が鳴るたびに厳粛な気分にひたることができた。
この宿のレストランのお兄さんは愛想がよく、忙しいときでもメニューのドイツ料理を丁寧に説明してくれた。
車で5分ほど行ったところに隣り合わせでスーパーが2軒(エデッカなど)ある。
8時まで営業しているが、日曜は休みである。
スーパーで食料やお酒を買いこむと食事代が安上がりで済む。
この町はレストランやカフェ、土産物屋も多い。
宿 Scheffel-Gasthof
シングル朝食付きで€29〜€32 €32はテラス付きの部屋
●8月7日(金) Puttlacher WandとObere Schlossbergwandeの岩場
新しい宿のベッドが硬くてどうも体に合わない。
疲れもたまってきたのか、朝から腰の調子が悪い。
Puttlacher WandはHerkules〔ヘラクレス〕(9 / 9+)のあるキャンプ場からも近くて、道路に面したエリアである。
HerkulesのBarenschluchtは日当たりがよすぎて真夏は不向きであるが、
こちらは道路の反対側なので陽射しも弱くて快適である。
※ Abseitsfalle(8-)RP 20m以上のスケールにボルト5本のルート。
最初のトライではホールドの選択を迷っているうちに進退きわまって4〜5mのフォール。
Tさんのビレイがよくて腰の衝撃を感じなかった。
Station53(8)1× 長くて変化に富み、持久力のいるルート。ルートファインディングも難しい。TさんはマスターでOS。
午後からObere Schlossbergwandeに移動したが、腰の痛みがひどくなってきたのでクライミングを自粛する。
座っているのもつらくてなってきたので、岩場に横たわってしまった。
●8月8日(土) バンベルク観光
バンベルクに行く途中にあるエバーマインスタッドの採石場跡で化石を採掘する。
大小さまざまのアンモナイトやベルムナイトの化石がざくざく取れる。
ただし周りの岩を取り除くのには一苦労。
Tさんの指導のもとで、「のみ」を使って整形する。
デリケートな作業にしばし時間を忘れる。ちなみにユーラー(jura)とは中生代のジュラ期を意味する。
バンベルクに到着すると、さっそく麦を燻製にして作った地ビール(Rauch Bier)で乾杯。
ほろ苦くてくせがあるが、こくがあってうまい。
日本のビールが物足りなく感じた。
バンベルクは大聖堂など中世の建物や彫刻が豊富にある。
世界遺産に指定されているだけに観光客も多い。

●8月9日(日)
朝から腰痛がひどく、クライミングをやめて完全レストにする。
一日中、宿で過ごした。M氏とTさんはクライミングに出かけたが、お昼に一度、帰って来てくれた。
心配をかけて申し訳ない。ベッドで横になっているもつらくて気持ちが沈んだ。
●8月10日(月) 【最終クライミングのあとローテンブルクに移動】
ついにこの日がクライミング最後の日となる。
腰の具合はいまひとつであるが、クライミングをするかどうかは岩場に着いてから決めることにする。
結局することになるが…。
ユーラー北端のRolandfels でアップした後、対岸のDiebeslochに移動する。
ここで初めての雨を経験する。
薄暗くなった空から時折、にわか雨がふる。
この季節は意外に雨が多いと聞いていたが、今回のツアーで雨に遭遇したのは最後の2日間だけであった。
さて、グレードの更新をめざして8+のルートに取りつく。
3度トライしたがワンテンどまりで、ドイツのクライミングを終えた。
※ Jojo(7+)OS , Stonehenge(8+)3×
クライミング後はローテンブルクに移動。
ローテンブルクは中世の街並みが忠実に再現された美しい町である。
ロマンチック街道のハイライトにもなっている。
城壁内への入り方がわからずに苦労したが、Tさんが携帯ネットで予約したホテルに夕方に到着した。
海外でも旅先から手軽に予約できる。
便利な時代になったものだ。
チェックインしてから、夕食も兼ねて市内散策にでかける。
夜のローテンブルクは観光客も少なくて夜間照明が美しい。
この町も戦争による破壊が激しく、復興に寄付した人や団体名が城壁に刻まれていた。
宿 Reichs-kuchenmeister シングル朝食付きで約€69(9,500円)
●8月11日(火) 【いよいよ帰国】
雨の降るなか、朝食前の時間を利用してもう一度、市内散策する。
朝食後もわずかな時間で買い物を済ませ、中世犯罪博物館を駆け足で見学する。
あらゆる残虐刑のオンパレードである。
こうした時代を経て死刑廃止に至ったヨーロッパの歴史や思想、宗教などについて考える。
帰り支度を整えて、フランクフルト空港に移動する。
レンタカーの返却も無事済ませてドイツを後にした。
ユーラー地方は山岳地帯でないが、路線バスの運行が極端に少ない。
移動の手段はどうしても車になる。今回はほとんどすべての運転をMさんにお願いした。
Tさんの的確なナビもあって初めての土地でもスムーズに移動できた。安全運転と的確なナビに感謝。
●8月12日(水) 日本時間で表示
【日本到着】 飛行機の新聞でノリピーの事件と台風9号の被害を知った。
まだ梅雨も明けていないようだ。
12時間後に関空に到着した。
往きの便と違って、快適な空旅となった。
重いザックは関空から自宅に配送した。
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