【著者略歴】 1961年、東京生まれ。 本名・松本優子。 1983年東京芸術大学音楽学部中退,1987年北海道大学農学部農業生物学科卒業。 日本アイ・ビー・エム(株),アップル・コンピュータ(株)勤務, フリーのコンピュータ・インストラクターを経て,作家業に入る。 95年「瑠璃光寺」が第2回創元推理転変賞の最終候補となる。 96年「マリーゴールド」で第3回九州さが大衆文学賞。 「隣人」で第18回小説推理新人賞。 「枯れ蔵」で第1回新潮ミステリー倶楽部賞。 人物造形が丁寧。 オフィスや業界での事件を巧みに描く。 謎解きと同時に、そちらも楽しみ。 血の通った「人物」をきちんと描いているのが最大の魅力か。 それも多重構造で、表からも裏からも。 初めて読むなら、ミステリ系なら、「ダブル」「カカオ80%の夏」あたりがオススメ。 オフィス、日常ミステリなら「歪んだ匣」「ランチタイム・ブルー」「天使などいない」、 恋愛系なら、「ドロップス」「年に一度、の二人」「ソナタの夜」 成長小説「永遠の出口」ファンなら「グラデーション」。 どの作品も個性があり、毎回趣向が凝らされていて楽しめる。 【参考】
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枯れ蔵 | ★★★★☆ | (新潮社、1997年1月/新潮文庫、2000年2月刊) |
樹縛 | 未読 | (新潮社、1998年4月刊/新潮文庫、2001年2月刊) |
ミレニアム | 未読 | (双葉]、1999年3月刊/双葉文庫、2000年11月刊) |
ランチタイム・ブルー | ★★★☆ | (集英社、1999年12月刊/集英社文庫、2005年2月) |
歪んだ匣 | ★★★★ | (祥伝社、2000年7月) |
大いなる聴衆 | ★★★★ | (新潮社、2000年8月/創元推理文庫、2005年6月) |
天使などいない | ★★★★ | (光文社、2001年4月/光文社文庫、2003年6月) |
隣人 | ★★★☆ | (双葉社、2001年7月/双葉文庫、2004年7月) |
防風林 | ★★★★☆ | (講談社、2002年1月/講談社文庫、2005年11月) |
ボランティア・スピリット | ★★★☆ | (光文社、2002年8月/光文社文庫、2005年1月) |
唇のあとに続くすべてのこと | ★★★★☆ | (光文社、2003年1月/光文社文庫、2005年10月) |
希望 | ★★★☆ | (文藝春秋、2003年12月) |
俯いていたつもりはない | ★★★☆ | (光文社、2004年9月/光文社文庫、2007年8月) |
ソナタの夜 | ★★★☆ | (講談社、2004年12月/講談社文庫、2008年1月) |
ビネツ 美熱 | ★★★☆ | (小学館、2005年6月) |
さくら草 | ★★★★☆ | (東京創元社、2006年5月) |
ダブル | ★★★★★ | (双葉社、2006年9月) |
欲しい | ★★★☆ | (集英社、2006年12月) |
年に一度、の二人 | ★★★☆ | (講談社、、2007年3月) |
カカオ80%の夏 | ★★★★★ | (理論社、2007年4月) |
ドロップス | ★★★★★ | (講談社、2007年7月) |
グラデーション | ★★★★☆ | (光文社、2007年10月) |
義弟 | ★★★★☆ | (双葉社、2008年5月) |
レッド・マスカラの秋 | ★★★★☆ | (理論社、2008年12月) |
悪いことはしていない | ★★★★☆ | (毎日新聞社、2009年3月) |
グラニテ | ★★★★☆ | (集英社、2008年7月) |
マノロブラニクには早すぎる | ★★★★☆ | (ポプラ社、209年10月) |
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2009年10月18日 「マノロブラニクには早すぎる」永井するみ(ポプラ社)
永井するみ作品にしたら、割と文章軽め。 それでも、心理描写の上手さ、流れるようなストーリー展開は健在。 初期の業界ものを彷彿させる内容。 ファッション誌が舞台で、新人編集者がヒロイン。 永井作品に付き物、「不倫」もしっかり入っている。 でも、ヒロインの恋愛描写がないのが珍しい。(あっさりしてて、良かった) 最初、「プラダを着た悪魔」風かな、と思っていたら、途中で別な展開に。 ミステリ色もあるけど、色調は弱い目。 新人編集者の奮戦と業界内幕が中心。 他の作家だと、冗漫単調になるところ。 さすが永井作品、最後まで一気に引っ張るベクトルは強力。 巧い! |
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2009年10月18日 「グラニテ」永井するみ(集英社)
早くに購入してたんだけど、読むのを控えていた。 なぜかと言うと、「ヴィリ」(山岸凉子)とテーマ重なったから。 つまり、ひとりの男性をめぐる母娘の対立と葛藤。 でも、読んでみて「違う」、と思った。 やはり、永井するみ流に料理されている。 情感あふれる心理描写。 母親から、娘から、両面から描写される。 非常にリアリティがある。 やはりおもしろい。 (テーマがナンなんで、点数辛い目) |
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2009年8月23日 「大いなる聴衆」永井するみ(新潮文庫)
読み応えがあった。(642ページ) 音楽への造詣もハンパではない。 音楽知識だけではなく、「芸術家」と言う選ばれた人達の選民意識まで描いている。 そこが永井するみ作品らしい。 音楽家にしろ、作家にしろ、選ばれた人達、っているんですよね。 ある程度のレベルになると、努力だけでは如何ともしがたい、っていうか。 そういうの感じたことない? |
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2009年8月9日 「唇のあとに続くすべてのこと」永井するみ(光文社文庫)
ひじょうに巧いし、心理描写もすばらしい。 ミステリ作家として出発したが、ここではミステリの範疇を脱却されている。 後の「ドロップス」もすばらしかったが、既にこの時期このレベルの作品を著されていたんですね。 ところで、私は学生時代、瀬戸内晴美作品をよく読んだ。 (「妻たち」「妻と女の間」「京まんだら」「美は乱調にあり」等) 永井するみ作品は瀬戸内晴美作品に充分匹敵する内容がある。 それどころか、ミステリ要素も加わりおもしろさ倍増。 (ちなみに瀬戸内晴美作品を薄口にすると「失楽園」(渡辺淳一)になる) ストーリーは菜津と良平夫婦の物語。 これに菜津の元・不倫相手と現・不倫相手が絡む。 さらに、夫・良平も不倫をしているのが発覚。(W不倫じゃ!) 物語発端は元・不倫相手が死亡し、その死亡に不審な点がある、と警察がやってくる。 不倫が横糸、ミステリが縦糸で物語が展開する。 今回も、恋愛描写(特に心理面)堪能した。 夫婦のありように対する筆も冴えている。 (以下、引用) 結婚して十年経った夫婦の常として、ある程度の無関心と諦めとを心に抱え持ちながらも、 同時に十年分の知恵もつけていたから、お互いを適度に尊重する礼儀正しさも持ち合わせていた。 (以上、引用終了) ・・・これは、実際どうだろう? ある程度、知的+経済レベルに達した夫婦でないと、こうスマートにいかないような気がする。 (性格もあるだろうし) 一般の夫婦では、下世話な夫婦げんかに終始する、と思う。(皆さんの周りはどうでしょう?) 私は、その方が健康でよい、と思う。まぁ、限度があるけどね。 (再び、以下引用) 心の奥底にある感情はそっとそのままにして、日常の過ぎゆく一こま一こまを 良平と分かち合ってきたつもりだった。 けれどある日気が付いた。 良平と共にあるとき、最も心安らぐのは沈黙だと。 あのときだっただろうか。寝室を別にしようと菜津が提案し、良平が受け入れたのは。 孤独でいられる時間こそが自分の求めていたものだと悟ったとき、寂しかったのか、 それともある種の覚悟を持ったのか、今となっては菜津自身も思い出せない。 (以上、引用終了) 夫・良平のもとへ妻・菜津の不倫を知らせる手紙がくる。 その手紙の解析部分P266〜P269がすばらしい。 この分析から犯人が分かる。 これ以外に、印象深いシーンは、菜津が元・不倫相手の妻と「対決」するシーン。(瀬戸内作品を彷彿) また、菜津が現・不倫相手を追ってバンコクに行くシーン。 (ひじょうに官能的、でも私ならクラビ空港からプラナンへ行く) エンディングも救いが無く、「業」の深さを感じる。 つい思ってしまう、菜津のような妻を持った夫・良平は幸福なのだろうか、と。 PS 作品としては「ドロップス」の方が好き。 まだ、多少カタルシスがある。 |
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2009年8月2日 「防風林」永井するみ(講談社文庫)
それでも、おもしろい。 引き込まれる。 そこが、ストーリーだけで引っ張る作家と一線を画するところ。 謎だけでなく、登場人物の心理で読ませる。 そこが、永井するみ作品のいいところ。 大矢博子さんの解説もよい。 どうやら、この作品から変化が起こっているようす。 謎解きより登場人物の心理を深く掘り下げる方向に変わったようだ。 たしかに言われてみればそのとおり。 でも、短編では既に実行済み。 もともと持っていた作風、ってことでしょう。 それが長編にも浸透した、ってこと。 |
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2009年8月2日 「枯れ蔵」永井するみ(新潮文庫)
でも、レベルが高い。 いきなりこの重厚なレベルに達する作家は少ないように思う。 多面的な視野で物語が進行する。 また、農業ミステリ、ってのが珍しい。 農薬を使用せず有機栽培に徹する被害者大下義一の人物造形がすばらしい。 米作り名人として全国的に有名で米を大切に育てている。 ところが、人格はボロボロで、家族からも嫌われている。 東南アジアに出かけて買春ツアー。 でも、米作り名人で尊敬されている。 ほんと、どうしようもない老人だ。 |
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2009年3月29日(日曜) 「悪いことはしていない」永井するみ(毎日新聞社)
永井するみ作品最新刊、それも久々のオフィスミステリ。 初期の頃、「ランチタイムブルー」「歪んだ匣」のような優れたオフィスミステリを書かれていた。 でも、最近はずっとご無沙汰状態だったので、楽しめた。 ヒロインが、あの「カカオ80%」シリーズの三浦凪の成長した姿と重なる。 でも、こちらのヒロインの方が少し天然っぽい。 中編が2作。 「ピスタチオ・グリーン」 「デビル・ブラック」 どちらも主要登場人物が共通。 特に、穂波と亜衣、2人の友情関係が重要なテーマ。 もしかして、これもシリーズ化されてりして。 期待してしまう。 |
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2008年12月7日(日曜) 「レッド・マスカラの秋」(理論社)
いや〜、待った待った! あの「三浦凪」が帰ってきた。 ファン必読でしょう。 前回は福祉業界が舞台だったが、 今回はモデル業界、化粧品業界が舞台。 永井するみさんは、このような業界モノがうまいし、得意とする。 「デビューした頃から、働く女性を描くことは、大きなテーマの一つ」、とあとがきにも書かれている。 毎回、その業界の知識が楽しめるのも永井するみ作品の魅力。 もちろん、登場人物もいい感じだし。 前回出演のミリ、紀穂子、雪絵、マスター、ジェイク、凪母、とオールスター。 今回新たな出演・・・すみれ社長、ショップ経営の瀬菜に助けられながら、友人ミリを助ける。 ミステリ要素は前回より低いけど、ストーリー牽引力は大きい。 さっそく手にとって、楽しんでみて。 PS P148ページに注目。 雪絵が凪に「依頼」するシーンが好き。 あと、凪が招集をかけるP221全員集合のシーン。 PS2 今回少しでも早く読みたい、と出版社に直接購入したが、 12/4発売→12/7到着・・・・遅すぎる! 実は、ガマンできなくて、12/3大型書店に梅田まで買いに行ったのだ。 1日くらい、と思われるかもしれないが、辛抱堪らなかった。 人生折り返し地点が過ぎ、老い先短くなって、気も短くなった。 忍耐力は小さくなり、人間も小さくなった。 ・・・そして、手元には同じ本が2冊。(涙) |
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2008年9月21日(日曜)晴れ 「義弟」永井するみ(双葉社)
【表ページ】 このまま抱きしめたら 絞め殺してしまう・・・ 押さえきれない破壊衝動を封じ込めてきた弟、 心と身体に深い傷を抱えながら生きてきた姉。 血の繋がりのないふたりは、本当の肉親以上に 信頼しあっていた。しかし、ある事件をきっかけに "姉弟の箍”が外れていく。 【裏ページ】 スポーツインストラクターの克己と弁護士の彩は、 血の繋がりのない義理の姉弟。成人した今、克己の 彩に対する感情は、姉以上のものになっていた。 そんな中、彩の不倫相手が彼女の職場で急死する。 助けを求められた克己は、彼女を守るため遺体の処理を するのだが・・・。 いかがでしょうか? 著者の文章は、微妙な心理を克明に描写していく。 これが、なんともたまらない・・・けど。 心理描写の巧い作品が私の好みだ。 なぜなら、小説とは感情のトレースだから。 PS TVはクライミングがらみだけど、 読書はクライミングとかけ離れた作品を選んでいるようだ。 |
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2008年11月30日(日曜) 「カカオ80%の夏」の続編が出るらしい、と以前書いた。 いよいよ12月に出版されるらしい。 先日、理論社からのダイレクトメールが届き、新刊案内に書いてあったのだ。 ・・・刊行予定12月、と。 タイトル「レッド・マスカラの秋」〜待ち遠しい! さっそく理論社に直接購入を申し込んだ。 いつもの書店に頼んでもよいのだが、問屋との兼ね合いで、発売日に入手できる可能性が低い。 梅田・大型書店に買いに行ってもよいのだが、仕事の都合で週末になるし。 (ここは、やはり出版社直接購入が無難でしょう) 「レッド・マスカラ」に備えて、「カカオ」を読み返してみた。 ・・・やはり、おもしろい! 一気読み。ストーリーはスピード感あるし、登場人物もそれぞれ存在感ある。 続編ますます楽しみ。 「COLORS」(ホーム社)
どの作品もレベルが高く、甲乙つけがたい。 面白かった。(唯一、花村氏の作品がイマイチだったくらい) もし、ベスト3を選ぶとしたら・・・ @金色の涙 A真っ黒星のナイン B緋色の帽子 宮本昌孝氏の作品は短い中にストーリー凝縮され、みごと。(泣けた) ふだん人情ものを読まないので、よけい感激したのかも。 「金色の涙」が入っている、ってだけでこの本価値有り。 ところで、この作品、「夏雲あがれ」「藩校早春賦」のスピンオフのようだ。 いずれ、チェック予定。 |
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2008年11月21日(金曜) 「Lost and Found」(ポプラ社)
おもしろかった順番は・・・ @「いっちゃん」花形 みつる A「ハンカチの木」永井 するみ B「アヴァロンを探して」香谷 美季 C「夢のない眠り」長崎 夏海 D「神様のさいころ」石崎 洋司 なぜこの本を読む気になったかと言うと、永井するみさんの作品を読みたかったから。 それも書き下ろしだし。 花形みつるさんの作品は予定外のおもしろさだった。 |
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2008年3月1日(土曜) 「ソナタの夜」永井するみ(講談社文庫)
狂おしいほど切実な七つの危険な恋愛 7編のオムニバス短編集。 いずれもレベルが高い、感情が揺さぶられる。 例えば次のような文章。(P152) ・・・夫との間にあったのも、恋愛というよりは、上手に助け合って 効率的に人生を歩もうじゃないかという取り決めに近い。 一人の男を想うだけで、男の肌に触れるだけで、 体がとろとろに溶けていくような感覚を覚えたことはなかった。 焼き上がったばかりのスフレのように熱く甘い瞬間は、 もう二度と私の人生には訪れないだろうと考えていた。 どうです? 気分はほとんど不倫妻。 ところで、この作品は永井するみ作品の中で重要な位置にある。 なぜならミステリ作品ではないからだ。 いままでずっとミステリにこだわってきたのに。 犯罪を扱った作品ばかり書いてきたのに。 しかし、これが契機となり、 「年に一度、の二人」 「ドロップス」 「グラデーション」 ・・・と続くのだ。 その意味で重要な作品であり、岐路でもある。 PS 1月に発売されたばかりなのに絶版状態。 数店舗めぐって入手した。女の手」を読んでいて、瀬戸内晴美「妻たち」の1シーンを思い出した。 |
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2007年12月8日(土曜) 「グラデーション」永井するみ(光文社)
永井作品最新刊。 オビの文句はこうだ・・・ 『一つ一つ、迷ったらいい。 歩き続けていれば、 日々は色濃くなってゆくものだから』 14歳から23歳までの10年間を描く成長小説・人生案内小説(ビルドゥングスロマン)。 (簡単に言えば、永井版「永遠の出口」だ!) それにしても、このような作品を書いてくれるとは、びっくりした。 不倫も犯罪もない永井作品だぞ! 表紙に「永井するみ」の印字がなければ判らないかも? 今年7月に出版された「ドロップス」でも犯罪は起きなかったし。 (不倫はあったけど) どうしたんだ? ミステリにこだわってないのかも? それはそれで、今後が楽しみだけど。 (私もミステリにこだわってないし) ところで今回の作品だけど、きわだって大きな事件もエピソードもない。 等身大の身近なヒロインによる成長小説。 これが著者の略歴とダブらない。 著者の過去はもっと波瀾万丈だ。 1983年東京芸術大学音楽学部中退, 1987年北海道大学農学部農業生物学科卒業。 日本アイ・ビー・エム(株),アップル・コンピュータ(株)勤務, フリーのコンピュータ・インストラクターを経て,作家業に入る・・・。 自伝を書いても、ドラマチックでおもしろいかもね? PS 今回も印象に残る文章があったので紹介する。 自分がしんどい思いをしなければならないというのに、 しょうがないわねえ、と子供でも見るような目を向けている。 こういう余裕というか、心の糊しろのようなものがあるから、 別の誰かの糊しろと重ね合わせることができるのだ・・・ |
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2007年10月1日 「俯いていたつもりはない」永井するみ(光文社文庫)
もし、著者名が書いてなかったら、どうだろう? ミステリ謎解き部分がなかったら、どうだろう? ・・・もうほとんど瀬戸内晴美さんの世界? (出家する以前の作品) もちろん誉めてるんだよ。 それほど不倫描写が巧い。 ブリュッセルと日本の両方にまたがる。 (このあたり宮本輝氏を彷彿させる) プレスクールがキーワード。 精密な心理描写は永井作品らしい。 子供とその母親の描写が巧い。 後味も悪くない。 意外な事実も最後に判明し、びっくり。 |
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2007年9月22日 「ボランティ・スピリット」永井するみ(光文社文庫)
良く集めたものだ。 ・・・これだけ後味の悪い話ばかり! 日本在住外人へのボランティア日本語教室が舞台。 講師も生徒も集うK市文化センター。 そこで起こる様々なトラブル、事件。 外国人への偏見。 日本人同士の軋轢。 様々な感情が渦巻く。 どの短編も(みごとに)後味が悪い。 これって、著者の意図なんでしょうねぇ・・・。 善意の裏に隠された、陰湿な顔。 ほんと、悪意の書き方が巧い。 体調を整えて読んでいただきたい。 |
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2007年9月8日(土曜) 「天使などいない」永井するみ(光文社文庫)
図書購入や図書館借りだしのヒントになれば幸いである。 初期短編集。 「隣人」よりも好み。 特に「別れてほしい」「マリーゴールド」の2編が良かった。 「別れてほしい」は2人の女性を中心に物語がすすむ。 いつも他人のものを欲しがる幼なじみ。 美紀子は何度も沙貴にカレを奪われる、苦い経験がある。 そして今回も、再びカレを奪われてしまう。 でも、それは・・・。 お互いの悪意が絡み合って良い感じ。 怖いねぇ。 「マリーゴールド」もストーリー展開がみごと。 ヒロインが通勤途上で「理想のビジネスウーマン」を見かけ、後をつけていく。 すると意外な側面が。 でも、ヒロインはそれも好ましく感じる。 ところが、それにはさらに「奥」があった。 心の揺れがみごと。 ミステリーとしてもgood。 「レター」「銀の墨」も良かった。 同じ初期短編集「隣人」より後味の良い作品が多い。 |
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2007年9月3日(土曜)曇りのち雨 「隣人」永井するみ(双葉文庫) 初期短編集。 永井作品は2種類ある。 業界ものと日常もの。 この作品集は日常もの。 身近な人たちを題材にしている。 登場人物は私やあなた、って感じ。 愛情→破綻→殺人のパターン、 でも、違和感がない。 充分ありうる設定。 感情の中でもっともパワーがあるのは愛情と憎しみ。 瞬発力と持続力の両方を併せ持つ。 (だから嫉妬はパワフル) これに利害&打算が絡む。 愛情と憎しみは表裏一体。 殺人が起きても不思議ではない。 「洗足の家」がgood。 結構怖い。 納得のエンディング。 なぜか、カタルシスも。 |
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2007年8月26日(日曜) 「ドロップス」永井するみ(講談社) なんか、フツーにいいよー。 文章巧いよー。 地味な内容だけど。 派手なシーンもないけど。 でも、いい感じ。 離婚や不倫抑止に役立つ実利性もあったりして。 以下、引用しよう。 家庭を持ち、子供が生まれて家族が増える。 そういう当たり前の時間を重ねていけば、 幸せというのは、全員プレゼントのようにもれなくもらえるものだと思っていた。 どうです? これだけでも読む値打ちがあるってもんだ。 この作品は、結婚10年以上の(子供のいる)夫婦が(特に男性が)読むべきじゃない? 妻の心理がよく解るよ。 ・・・って、私が感慨にふけっても意味ないか? |
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2007年7月22日(日曜) 「希望」永井するみ(文藝春秋) あらすじを引用する。 五年前に老人を次々と殺害した少年が、少年院から戻ってきた。母親や刑事、カウンセラー、 被害者の孫たちを巻き込んで、やがて起きる新たな事件―。著者会心の長篇エンタテインメント。 引用終了、(「BOOK」データベースより) 少年犯罪がテーマ。 いつもの著者らしく、テーマを深く掘り下げている。 さまざまな視点から多重構造で語られる。 さすがにテーマがテーマだけに、全体の色調は暗く重い。 しかし、このエンディングはカタルシスが無さすぎ。 それでも「希望」と呼ぶのか? まいった。 →イメージ画像 |
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2007年7月16日(月曜) 「さくら草」永井するみ(東京創元社) これは力作。 以下、折り返し部分の宣伝文句。 プリムローズ殺人事件− 作害された少女たちが身にまとっていたのは、 ローティーンに絶大な人気を誇るジュニアブランド、プリムローズの服だった。 清純で高級感のあるデザインは、 プリムローズを身につけた少女の写真を売買する男たちをも生み出す。 亡くなった少女たちに果たして何が? ブランドを守ろうとするゼネラルマネージャー、女刑事、 そして少女の母親、事件に揺り動かされる女たちを描く、 著者渾身の長編ミステリー。 以上、引用終わり。 ジュニアブランド業界、ってのが珍しい。 「ダブル」に匹敵する力作。 関連する人物により多重構造で事件が描かれる。 みごとな描写力。 このところ永井作品ばかり読んでいる。 私はカタルシスのある作品が好き。 でも、永井作品は必ずしもそうではない。 では、なぜ読むのか? 何が私の「趣味」を刺激するのか? PS 永井作品のサブテーマは「不倫」か? 最初は、偶然、たまたま、と思っていた。 でも、そうではないようだ。 いままで読んだ作品の主要人物がほとんど不倫をしている。 なぜ? イメージを画像 |
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「欲しい」永井するみ(集英社) これは長編。 派遣業を経営するヒロイン。 たよりなげな新入社員のトラブルが発端。 こんな感じで普通に物語が展開するのかなー、って思っていたら途中急展開。 俄然ミステリらしくなってくる。 でも、永井作品の常として謎解きそのものが中心になることはない。 登場人物の造形が丁寧に描かれる。 派遣業、ホスト業、福祉の裏についても言及される。 このあたりが永井作品の魅力になっている。 これまで7冊読んだが、駄作はない。 今のところハズレなし。 |
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「歪んだ筺」永井するみ(祥伝社) ミステリ短編集。 複数企業の入ったインテリジェントビルを舞台に様々な事件が起こる。 登場人物もダブったりする。 深刻な事件から軽い事件まで。 著者は長編も巧いけれど、短編も思った以上の内容で楽しめる。 比較的初期の作品だけれど完成度は高い。 気合いを入れて読む作品じゃないけれど、 「あぁ、おもしろかった」、って感じで読み終わるよ。 身近な日常の職場を扱っているので刺激にもなる。 ただし、入手困難。 図書館で借りるのが近道。 |
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2007年7月8日(日曜) 「ビネツ−美熱−」永井するみ(小学館) エステが舞台。 文献、取材、消化、執筆、と作家としての資質を問われる4本柱。 きちんとクリアーしている。 それにしても「悪意」を描くのが巧い。 つい比較してしまうのが、同じミステリー作家・宮部みゆきさん。 (永井するみさんより1歳上) 昨年話題になった「名もなき毒」にも悪意のかたまりのような やっかいな女性が登場する。 両者を比較すると同じくらい表現力を感じる。 私の判断では実力同等。 ・・・でもベストセラーにならない。 なぜ? 以下、推測。 宮部作品のファンは男性が多い。 永井作品ファンは女性が多い。 ミステリーファンは圧倒的に男性が多い。 このあたりが理由か? つまり、永井作品は男性受けしない(ような気がする)。 あまりに女性のイヤな面を克明に描写して男性をヒカせる。 今回の作品でも、それが言える。 でも、これから変わるかも? 「カカオ80%の夏」でいい感じだったから。 PS あのエピローグは必要? 舞について書いてあるけど。 男性編集者がムリに書かせたのか? →イメージ画像 |
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2007年7月3日(火曜) 「ランチタイム・ブルー」永井するみ(集英社文庫) 連作ミステリー短編集。 職場等、身辺に起こる謎が題材。 どちらかと言うとミステリー色は薄い。 若い女性向けに、恋愛色を濃くして人生案内を兼ねた、って感じ。 著者の作品群の中でもトップクラス、とは思えない。 でも楽しめる。 80点くらい? なお、7月1日付け【ぼちぼちクライミング】にて『フィトンチッド』、って言葉を紹介した。 ネタはこの作品からだ。 【参考】 →「永井するみ作品」 →永井するみ/著 →イメージ画像 *上が文庫本表紙 *下が単行本表紙 |
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2007年6月12日(火曜) 「カカオ80%の夏」永井するみ(理論社) YA(ヤングアダルト)を対象とした理論社の『ミステリーYA』の1冊。 永井するみさんのティーン向き作品。 (読む前から期待指数100%) しかも、期待を裏切らない内容。 すばらしい。 女子高生ハードボイルドの誕生。 読む前は、「そんなモノが成立するのか?」、と半信半疑であった。 しかし、無理のない設定。 あり得るストーリー。 大人向けでも充分通用する。 さすが、永井するみさん。 最初は孤高を気取っていたヒロイン。 それがストーリーの展開と共に、自分の弱さに気づいていく。 人間関係の輪を広げ、様々な人に助けられながら、ストーリーが展開していく。 若者から老人まで。 それぞれが個性を持った脇役達。 お嬢様キャラ紀穂子も、モデルのミリも。 婆ちゃんの鈴木さん、榊さん、草笛さん。 エンディングもいい感じ。 もし、読者が現役の女子高生ならもっと夢中になれるでしょうね。 もっと感情移入できるでしょうね。 筆者のようなオヤジでも(かなり)面白く感じられたから。 映像化されても面白いし、すでに目を付けられてるかも? →参考イメージ PS 書店でも、シリーズ中この作品だけ平積みされていた。 力を入れているのでしょう。 おそらく続編を望む声は多いと推察される。 |
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2007年6月10日(日曜) 「年に一度、の二人 」永井するみ(講談社) 図書館で予約済みだったので、すぐ入手できた。 「予感」があったから。 「ダブル」が面白くて他の作品を読みたくなるであろう、と。 さて、予備知識が少ない状態で読み始めた。 ミステリーと思っていたら、違った。 年に一度、の逢瀬を約束した男女2組の物語。 恋愛小説としては淡々と進行する。 不倫でありながら、どろどろしないのは香港が主要な舞台になっているせいか。 それぞれの人物造形は、さすがにしっかりしている。 多角的に語られる。 最後に、まったく異なる路線の2組の男女が交錯する。 P251、宗太郎が夏凛に言うセリフが余韻を残す。 ミステリーの仕掛けがなくても、読み応え充分。 後味もよい。 →参考イメージ PS 「生活と覚書(クライミング編)」に「余力」について書いている。 なぜ唐突に「余力」?、と思われたでしょうか? 上記「年に一度、の二人 」の余韻と影響。 (私は読んでいる本の影響を受けやすいタイプ) クライミングとは何の関係もない作品だけれど、 この「キーワード」にハマった。 なお、不倫を扱った作品なので、クライマーの方はムリして読む必要はない。 蛇足ながら付け加えておく。 PS2 ビリーワイルダーの「お熱い夜をあなたに」を思い出した。 |
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2007年6月9日(土曜) 「ダブル」永井するみ(双葉社) 以前から名前は知っていた。 永井するみ、と言う作家を。 でも、これほどのレベルとは思わなかった。 本格ミステリーで面白いのは、宮部みゆきさんと、桐野夏生さんくらい、と。 これから永井するみさんは要チェック、だ。 おもな登場人物は2人。 雑誌記者の多恵。 妊婦の乃々香。 同じ20代後半、異なる道を歩んでいる。 2人が交わり、親しくなって、対立する。 ホテルでの対決シーンは圧巻。 迫力満点。 多恵の自宅での「あのシーン」も怖かった。 最後のページを読んだ後、タイトルの深い意味が見えてくる。 ・・・それにしても乃々香のキャラは怖い。 これはオススメ。 一気読み。 →参考イメージ PS どうして「このミス」や「文春ミステリー」にリストアップされないのか? |