【奥田英朗さんのページ】

          【著者略歴】

雑誌編集者、プランナー、コピーライターを経て、『ウランバーナの森』でデビュー。
2001『邪魔』で第4回大藪春彦賞を受賞。
2004『空中ブランコ』で第131回直木賞を受賞。

【小説】
B型陳情団 未読 (講談社)
おれに訊くんじゃない 
−近そうで遠い男と女のハナシ−
未読 (大和書房)
真夜中のマーチ 未読 (集英社)
最悪 ★★★★★ (講談社)
東京物語 ★★★ (集英社)
イン・ザ・プール ★★★★★ (文藝春秋)
マドンナ ★★★☆ (講談社)
邪魔 ★★★★☆ (講談社)
ウランバーナの森 ★★★☆ (講談社)
空中ブランコ ★★★★★ (文藝春秋)
サウスバウンド ★★★★★ (角川書店)
ララピポ ★★★★ (幻冬舎)
町長選挙 ★★★★ (文藝春秋)
ガール ★★★★★ (講談社)
家日和 ★★★★ (集英社)
オリンピックの身代金 ★★★★☆ (角川書店)
邪魔 ★★★★☆ (文藝春秋)
【エッセイ】
延長戦に入りました 未読 (幻冬舎)
野球の国 未読 (光文社)
泳いで帰れ 未読 (光文社)
港町食堂 未読 (新潮社)

「無理」奥田英朗 

地方都市を舞台に展開する「最悪」「邪魔」に続く群像劇。
様々な年齢職種の5人の男女。
彼らの人生、毎日の生活が詳細に語られる。
もう圧倒的なリアリティ。
ちょっとした行き違い、躓きから転がっていく人生。
未来に光はあるのか?
いったいどのように物語は収束するのか?
著者の筆力は見事。

PS
それにしても、この閉塞感・・・たまりません。
これが日本の縮図なんでしょうね。

「邪魔」奥田英朗

奥田英朗さん、初期傑作。
「最悪」と同じ群像劇となっている。
それにしても、巧い。
ストーリー構築、キャラクター設定、詳細な描写とリアリティ、巧みな演出。
現代日本文壇のトップクラスの筆力、と思う。
『引き出し』の多さも抜群、である。
「イン・ザ・プール」「空中ブランコ」のようなユーモア小説。
「ガール」「マドンナ」のような軽妙なオフィス小説。
「サウスバウンド」型破りな父に翻弄される家族と少年を描く人生案内小説。
そして「最悪」「邪魔」のような急降下する群像劇。

特に巧いと感じるのは、心理的追い込み。
逼迫する状況から、登場人物をどんどん追い込んでいく。
そして、登場人物は突然「切れる」てとんでもない行動に出る。
このあたりの描写が実に巧い。
詳細な描写がリアリティを醸す。
強烈なベクトルで最終ページまで一気読み、である。

PS1
予想もつかないエンディング。もう、何というか・・・絶句。

PS2
本道とは関係ないけど、引っ掛かった個所がある。P125

「パートでも有給休暇はあるんですよ。六ヶ月、勤めれば」
「そうなんですか」
「そうです。給料がもらえて休めるんです。それに一年以上働いて年収90万円以上の見込みがあれば、雇用保険にだって入れます」


これは、現状とは異なっている。
以下を参考にしてみて。
雇用保険の適用について
雇用保険制度(厚生労働省ホームページ)
http://osaka-rodo.go.jp/(大阪労働局)

2009年5月10日

「オリンピックの身代金」奥田英朗(角川書店)
内容 昭和39年を舞台にした社会はサスペンス、H21年吉川英治賞受賞作品
一般的面白さ ★★★★☆
個人的趣味 ★★★★★
キャラクター ★★★★★
ストーリー ★★★★★
点数 92点
気分 さすが奥田英朗さん!
オススメ ★★★★☆
ネット上の紹介 昭和39年夏。
10月に開催されるオリンピックに向け、
世界に冠たる大都市に変貌を遂げつつある首都・東京。
この戦後最大のイベントの成功を望まない国民は誰一人としていない。
そんな気運が高まるなか、警察を狙った爆破事件が発生。
同時に「東京オリンピックを妨害する」という脅迫状が当局に届けられた!
しかし、この事件は国民に知らされることがなかった。
警視庁の刑事たちが極秘裏に事件を追うと、一人の東大生の存在が捜査線上に浮かぶ…。
「昭和」が最も熱を帯びていた時代を、圧倒的スケールと緻密な描写で描ききる、
エンタテインメント巨編。
昭和39年を舞台にしたサスペンス。
これは読み応えがあった、二段組み521ページ。
当時の時代背景が詳細に描写される、それが見事。
また、登場人物が脇役に至るまで、血肉を持った人物として描かれる。
東京オリンピックの頃の熱気を感じながら一気に読んだ。
おもしろいし、考えさせられる。
一億総中流、と言われながらも、格差社会は既に始まっていた、と。
PS
過去の作品と比べるとどうだろう?
サスペンスでは「最悪」
笑いでは「イン・ザ・プール」
軽妙さでは「ガール」
牽引力では「サウスバウンド」
・・・このように感じる。
(上記4冊はどれを読んでもハズレなし)
PS2
犯人側からも描かれるが、
何となく「マークスの山」(高村薫)を思い出した。

【資料】
吉川英治賞


2008年2月10日(日曜)

「ウランバーナの森」奥田英朗(講談社文庫)
内容 実在モデルありの喪失と再生物語
一般的面白さ ★★★☆
個人的趣味 ★★★☆
点数 81点
気分 温かい気分
オススメ ★★★☆
奥田英朗氏初期の作品。
「町長選挙」で実在モデルありの作品をかかれたが、
既にこの作品で実験済み、だったのね。
私は奥田作品を多数読んでいるので、どうしても比較してしまう。
・・・少しインパクト、吸引力が低いかな、と。
でも、作品全体に流れるユーモア、温かさは健在。
ちなみにモデルはMr.ジョン・レノンとMs.オノ・ヨーコ。
76〜79の空白期間を扱っている。
80年はご存じのように「ダブルファンタジー」を発表し、凶弾に倒れる。
当時、新聞テレビで大きく取り上げられたのを覚えている。

2007年5月19日(土曜)

「家日和」奥田秀朗(集英社)

奥田さんの最新刊。
レベルが一定しているので、安心して読める。
ハズレ無し。
著者名だけで、即購入する作家の1人。
「家」と「人」がテーマ。
外へ出て働かないで在宅している方が主人公。
日本でユーモア小説はヒットしない、売れない、って言う常識を覆した。
ハラハラする展開に絶妙なエンディング。
読んで楽しい。
次作も読みたくなる。
2006年3月27日(月曜)晴れ

「ガール」奥田英朗(講談社)


著者は直木賞作家で、話題の作品。
ベストセラーで人気も高い、と思われる。
確かにおもしろい。
OLの心理をみごとに描写。
今年の(私的)ベスト10間違いなし。
「昔のオフィス小説との違いはジェンダー?」
・・・読んでいて、そう感じた。

ところで、このタイプの作品は平安津子さんの領域。
もし、著者名が間違って印刷されたら気づくだろうか?
また、平安津子さんだったら、ここまで売れただろうか?
(ちょっと意地悪な感想・・・ご容赦)

しかし、奥田氏は作品の幅が広い。
「最悪」と同じ作家とは思えない。
今回は「マドンナ」の延長線ノリ。
欲を言うなら、「イン・ザ・プール」のような笑いも欲しかった。
2006年5月22日(月曜)くもり

「町長選挙」奥田英朗(文藝春秋)
人気シリーズ3作目。
おもしろい。
質も高い。
映画化されたので、いずれチェックしたい。
今回、ナース・まゆみちゃんがバンドをやっていることが判明。
パンクロックのギタリスト。
う〜ん、似合いすぎ。
2006年4月16日(日曜)くもり

「ララピポ」奥田英朗
ほんと巧い!
閉塞状況に登場人物を追い込むのが。
悲劇と喜劇が紙一重。
理屈で説明不可能な「面白くてやがて哀しき」状況。
円熟期の田辺聖子さん名人芸領域に近い。
第一話から話が進んで、どんどん面白くなってくる。
特に第六話が圧巻。
よくこれだけ情けない人物ばかり集めたものだ。
最高!
欲を言うなら、紋切り型じゃない、一歩踏み込んだ
女子高生キャラを登場させてほしかった。
「ガール」で、キャラの立ったOLを多数登場させたのだから、可能なはず。

005年7月17日(日曜日)晴れ

「サウスバウンド」奥田英朗(角川書店)

オビの文句は以下のとおり。
☆表表紙:
お待たせしました。
2年ぶり、奥田英朗の長編新作です。
おもしろい小説、ここにあります!

☆裏表紙:
型破りな父に翻弄される家族を、
少年の視点から描いた、長編大傑作。
21世紀を代表する新たなる
ビルドゥングスロマン、誕生!


以上、どうでしょうか?
ちょっと大袈裟だけど、面白さは正味。
小学校6年の次郎君の視点から、家族、友人、学校、社会、世間を描いている。
ちょっと、醒めたところがあり、適度の距離感。
父親の熱血と帳消しで、ちょうどいい感じ。
「世間は歴史も作らないし、人も救わない。正義でもないし、基準でもない」、って言う母・さくらもいい。
また、タイミングよく「メエエ」、と鳴くヤギの十兵衛も好感度が高い。
著者によると、映画「モスキート・コースト」が、着想のきっかけになったそう。
でも、私は(同じくリバー・フェニックス出演の)「旅立ちの時」を思い出した。
いずれにせよ、今年度ベスト3に入る傑作。

PS
私のこだわりとして気になったのが、P426で「七恵はジュニア小説のファン」とある点。
「ジュニア小説」・・・死語じゃなかった?
(氷室冴子さんが「雑居時代」を連載していたのが「小説ジュニア」の最後あたりじゃなかった?)
今はYA(ヤングアダルト)か、ライトノヴェルだけど・・・。


004年7月22(木曜)晴れ
「空中ブランコ」(奥田英朗)文藝春秋
パワー全開。
先の「イン・ザ・プール」の続編であるが、ますます快調。
面白くて、インテリジェンスもある。
とても読みやすい作品だが、書く方は大変ではないか?
なぜなら、アイデア(ひらめき)+資料が必要だから。
その上、『笑い』まで追求しているし。
奥田英朗さんと言えば、「最悪」が有名だが、
まさかこういう方向に進まれるとは予想しなかった。
でも過去の作品を見渡すと、様々なタイプの作品を書かれているし。
この作品は、「マドンナ」をさらに濃くして、焦点を明確にしたのが勝因でしょうか?
主人公の精神分析医のキャラクターが魅力だし、
サブのセクシーナース・マユミちゃんもいい味を出している。
第三弾を期待している。

PS(1)
仕事中、ふとした拍子で思い出し笑い。
誰かに見られたら、不気味かも?

PS(2)
ところで、(おそらく)この作品が今年度(小説部門)マイ・ベストブックでしょう。
マンガ部門は(もちろん)テレプシコーラ。(次点は「のだめ」か「イヴの眠り」)
ちなみに昨年のマイ・ベストブックは「永遠の出口」(森絵都)。
さらに2年前のマイ・ベストブックは「黄色い目の魚」(佐藤多佳子)。
004年7月19(月曜)晴れ
「イン・ザ・プール」(奥田英朗)文藝春秋
話題の作者で、話題の本である。
先日、直木賞を受賞された。
(この時の、芥川賞を受賞された方とのコメントの違いが興味深い)
芥川賞は若くても、感性で書けてしまう(場合もある)。
直木賞は、プラスアルファが必要。
エンタティメントだし。
それが「外見とコメントに現れていた」、・・・って感じ。

ところで、田辺聖子さんは芥川賞を受賞されて、
後にエンタティメントに向かわれた希有な例である。
(滅多にクロスしないのに)

話を「イン・ザ・プール」に戻すと・・・面白かった!
精神科医が主人公である。
それが、もうハチャメチャな人物。
まともな治療なんて全くしない。
「こんな診察で大丈夫なのか?」、って心配していたら、
最後に、(患者さんは)治癒するか、快方に向かってしまう。
(どうなってるんだ?)
セクシーナース・マユミちゃんもイイぞ!
さて、この作品の続編が、受賞作「空中ブランコ」である。
こちらも、楽しみ。
これから読むつもり。

PS
帯に書いてある宣伝文句は次のとおり。
『何だか生きていくのがスーッと楽になる。日本文学に新しい必笑キャラクター登場!』
(米原万里さんも絶賛)


なかなか、よい感じでしょう。
・・・何よりも、米原万里さんの名前が効いているし!
2003年9月18日(木曜)晴れ

「東京物語」奥田英朗(集英社)読了
自伝的連作長編。
「最悪」「マドンナ」も面白かったが、これも佳作である。
共通して言えるのは人物造形がうまい、ってこと。
1978年のキャンディーズ解散から89年のベルリンの壁崩壊の年まで、
当時の世相とオーバーラップさせながら、青春を描いている。
殊に、1979年大学時代を描いた、『レモン』の章が良かった。
2003年7月11日(金曜)早朝、雷雨

「最悪」奥田英朗(講談社文庫)読了
10:30pm過ぎまで残業。
帰宅後、遅い晩飯を食べ、日課の斜め懸垂200回ほどこなし、風呂にはいり、酒を飲む。
後は寝るだけ、って感じ。
ベットで横になり、「ちょっと本でも読むか・・・」が、止まらなくなった!
面白すぎ!
ノンストップローラーコースター状態!
眠くなるどころではない!
キャラクター造りと言い、ストーリー展開と言い、うますぎ。
零細鉄工所社長・川谷、銀行員・みどり、プータローの和也。
何の共通点もない3人の人生が1点で交わった時、運命は急転し、
とんでもない方向に転がりだす。
先が見えない面白さ。
文字通り『最悪』にまっしぐら。
でも、後味は悪くない。
犯罪小説の名作まちがいなし。
先に読んだ「マドンナ」でもそうだけど、登場人物がキレる瞬間と、
そこにいたるプロセスの描き方が、異常にうまい。
2003年6月2日(月曜)
「マドンナ」奥田英朗(講談社)読了
奥田英朗の短編集である。
奥田英朗と言うと「最悪」が有名。
私も「最悪」から読み始めるつもりが書店に見つからず、こちらから読むことになった。
内容はサラリーマン小説である。
サラリーマン小説と言えば源氏鶏太を思い出すけど。(←かなり旧いぞ)
今はサラリーマン小説と言わないか?
オフィス小説と言うのか?
さて、内容であるが・・・面白かった。
かゆいところに手の届く小説である。
『会社という世間』がリアルに描かれる。
部下、上司、同僚、女子社員、家庭と会社、妻と子ども・・・よくある関係が再現される。
ありそうでない、なさそうである・・・といった新感覚オフィス小説。
うまい!ひじょうに達者な筆運びである。
次回は名作の噂高い「最悪」を読んでみたい。