【寄稿文KOUNOさんの『RRG・レポート』】
(2003年10月31開設)

  ★ ★ ★

河野さんは関西のベテランクライマーである。
そのキャリアは(山も含め)相当旧い。
昔からの仲間が、現役第一線で活躍し、
今なおモチを維持しているのは、
私にも大きな励みとなっている。
これは9月に、USA(RRG)を訪問されたレポートだ。
訪問者が少ない割に素晴らしいエリアと聞いていたので、
貴重な『訪問記』である。(ありがたい)

 ★ ★ ★
RED RIVER GORGE (USA) Climbing Tour
2003/09/12〜2003/09/26
KOUNO SEIICHI
             ★ ステイープ!ステイープ!ステイープ! ★
         【レッドリバーゴージ2003年 9/12 〜9/26】


明日にでも阪神が優勝するかも知れないというときに僕はケンタッキー、レキシントン
に出発しようとしていた。このツアーは僕(パンプスタッフ、自称プロビレイヤー)と
K親方(人材派遣業、自称 人買い)、K君(パンプのクーラー工事を請け負った職人)
の3Kトリオ+Sさん(紅一点、河野嫁の古くからの親友)の4人の記録である。

★【9/12】★
ノースウエスト航空のスチュワーデスはあいかわらずすごい。トイレに立つときによく
見ておかないとすれ違うときの離合はかなり困難である。日本からレキシントンへの直
行便はなく、デトロイトで乗り換え、ここで入国審査を受けた。隣前方の窓口で先に通
過した親方が、両手を上下に動かしている。クライミングの事を説明しているのか?
僕の順番がやって来て、「観光です」というと「それはおかしい。あそこは何もないはず
だ。本当の事を言え!」と係官に言われた。「レキシントンにはワールドクラスの岩場
があって・・・」後でみんなに聞くと僕も無意識に両手を動かしていたそうだ。ハーツ
レンタカーを借りて30分も走ると空港から町の反対側に突き抜けてしまった。
確かに何もない。今夜は大型スーパーのそばにあるモーテルに泊まることにした。

★【9/13】★
レキシントンから一時間強、快適なドライブでスレイド着。ここはレッドリバーのちょ
うどど真ん中になる。
まず、足慣らしにロードサイドクラッグへ、今日は土曜日なので、後からどんどんクラ
イマーがやってくる。
岩質は砂岩、オーストラリアほどではないがしっかりしていてかなりフリクションもいい。
岩には、無数の穴が空いていてフエコ、ポケット、エッジ、クラックなど多才なホールドを
駆使して登っていくのは無条件に楽しい。
まず、10台のルートに取り付いたけど、結構ムーブがあって厳しい。
見た目よりも結構被っているのだ。僕はいきなり指が痛くなってしまった。
僕とK君はRRGを代表するルートRO SHANPO 12a(見た目にも美しい芸術作品のよう
なフエコをつないでゆく、好ルート)を仲良くゲット、でも、そのあとがよくなかった。
気を大きくした僕は隣のおそろしくランナウトしているTIC-TAC-TOE 12aにトライするも
抜けることができず、敗退。
思っていたよりも厳しい現実に愕然とする。
昼過ぎにクライミングを切り上げて、今晩から泊まるところを探しに行くことに・・・
内藤さんが泊まったというクリフビューリゾートには、ダニー・デヒートににているお
じさん(実はオーナーらしい)が親切に案内してくれた。(訛りの強い英語でよくしゃ
べり、ちょこまか動き回る。最も僕には普通の英語でも全然わからない。)詳しいこと
は後からやってくるSさんに聞いてもらうことにして、時間がないので2件目に見せて
もらったキャビンを契約しようと親方が主張、こうして僕たちは超贅沢なキャビン(こ
こは3ルーム、7ベッド、オーブン付きの台所、乾燥機、ジャグジー風呂まで、ついて
いる超リッチな貸別荘だ。)で2週間暮らすことになった。
約束の時間まで後30分しかない。まだまだ喋りたそうなオーナーを振り切って、今日
遅れて到着するSさんを迎えにグリーングラス空港へ・・・
途中でSさんから電話がかかってきたが、なんだか声が暗い。
どうもロストバゲージらしい。
結局、デトロイトで荷物は見つかったけど最終の飛行機でレキシントンに送るらしいの
で、かなり遅くなってしまった。荷物を受け取り、一週間分ぐらいの食料を買い込んで
・・・さあ、キャビンに帰ろうとしたけど帰り道がわからない。
昼間はあわただしく、オーナーについていったし、夜になると真っ暗で道標もなく良く
分岐がわからないのだ。何回か同じところをぐるぐる走り、やっと自分達のキャビンに
着いたときは10時を過ぎていた。
(キャビンの入り口にあるゲートの鍵ナンバーは1313だった。オーナーは決してアンラ
ッキーナンバーじゃないよと繰り返していたが、クライマーにとっては、スペシャルラ
ッキーナンバーだ。今回はとってもついているような気がする。)

★【9/14】★
レフトフランクでクライミング。
夕方、ミゲルピザにトポを買いに行く。ここの裏はキャンプ場になっていて、週末はク
ライマーのたまり場である。靴以外のギヤは大抵ここで手に入る。(レキシントンのク
ライミングショップ、ジムはつぶれているらしい)もちろん、ピザはとてもおいしい。

★【9/15】★
今日はフォレントウオールにいくはずだったけど、良く解らず結局またロードサイドク
ラッグへ、・・・
アンテナがほとんどたっておらず、NO SERVICEになっている僕の携帯が鳴り出した。出
てみると嫁さんだった。第一声は「阪神優勝したよ」後は何をいってるのか電波状態が
悪く全然聞き取れない。野球に興味があるのは僕だけなので、みんな全然盛り上がらな
い。とても寂しい・・・・
お昼頃また携帯が鳴り出した。日本は今夜中のはずなので誰だろう?
相手はミゲルピザのお兄ちゃん、「誰かパスポートを無くしていないか?」という。
調べてみると最後まで私じゃないよと言っていたSさんだった。昨日ミゲルピザで買い
物をしたときに忘れたのだ。それにしても良く調べてくれたものだ。よく考えてみると
空港でロストバゲージの時にノースウエストのカウンターの兄ちゃんに電話番号を教え
ていたんだった。みんなの親切に感謝!!!

★【9/16】★
今日はオフ。もう一度、レフトフランクで登れなかった課題をやりたいというK親方、
K君の希望で午前中はクライミング。昼から、レッドリバーゴージの看板エリア、マザ
ーロードを偵察にいく。内藤さんの資料では、まだ開拓中で、アプローチがわかりにく
いと書いてあったけどしっかり踏み跡がついていた。道は東回り、西回り2本あり、ど
ちらからでも間違えることはない。車を置いて歩く事、10分強 やはり、このエリア
はすごかった。あまりのど迫力に圧倒されて僕のモチベーションはしゅるしゅると萎縮
してしまった。岩は馬蹄型をしたケイブで端から端まで歩くと5分ぐらい、メインの一
番かぶっているところは140度ぐらいで、鬼岩のメインウオールをもっと被らせて横に
10倍ぐらいした感じだ。更にその右側には、120度の壁に三ツ星の12,13のルート
が30本以上ひしめいている。どうしてこんな壁が出来たのか、自然の不思議さに感動
を覚える。

★【9/17】★
今日はこの間、見つけられなかったトレントフォールへ、何故わからなかったのかとい
うとこの岩場は道路から最も近くアプローチなし、でも隣にあるトレントフォールとい
うアドベンチャーエリアと勘違いしていたのだ。ここは初心者向けのクライミング体験
のレジャーパークでワイヤーを張った岩場をハーネスを付けてトラバースしていく遊び
の用だ。大人29$、子供(10〜18才)26$ いい岩場に見えるけどもちろんここにはフ
リークライミングのルートは無い。
このアドベンチャー施設の隣に同じ名前のトレントフォールというキャビン(ベッド+ブ
レックファースト)があってこの右側に探していた岩場があった。ここでクライミング
するには1日2$払わないといけない。
トレントウオールにも11,12台の三ツ星ルートがたくさんあり充実している。
Sさんは今回のツアーの目標である11CのOSに燃えている。
親方はそんなSさんを暖かく見守りながら、マイペースである。
僕がやりたい12台のルートは南西を向いているので燦々と陽があたっている。トライ
するには朝早くきた方が良さそうだ。


★【9/18】★
今日は朝一番にSさんが昨日登れなかったCENTERFIRE  11Cをトライするというので
応援してから、僕とK君はマザーロード、K親方とSさんはトレントに残ることにした。
Sさんは持ち前のねばり強さ、持久力を発揮して見事レッドポイント。僕たちも負けてら
れないとマザーロードに来てみたがやっぱり気持ちは塞いでしまう。僕は13台を何本
か触ってみるが、中心エリアのマッドネスケイブにある一番易しいルート、FORTY OUNC
ES OF JUSTICE 13aが自分には一番あっている気がした。
このルートにはヌンチャクが全部かかっているけど、スリングは変色しているし、カラ
ビナは粉を吹いていて、ゲートは指で戻さないといけないほど渋くなっている。最初の
10メートルは110度ぐらい、その後10メートル140度がつづき、レッジを乗り
越すとまた110度ぐらいのフェースがつづいている。
僕には終了点が果てしなく遠くどこまでも繋がっているように思え、真っ青な空の向こ
うに宇宙が見えた。
帰り道にまたミゲルピザに寄ってもらい、新しいカラビナを3枚購入した。

★【9/19】★
今日はオフ。
Sさんと親方はレキシントンへ、僕とK君はキャビンで1日読書して過ごした。

★【9/20】★
今日は全員でミリタリーウオールへ、ここも11.12台の三ツ星ルートが充実している。
ただ、一部のルートが落石のためか、金網で被われクライミング禁止になっていた。
今日で、出発する前に考えていたエリアは全部回ってしまった。みんなそれぞれ思惑が
あって、なかなか考えがまとまらず、自分の登りたいエリアを絞り込めないようだ。S
さんがミゲルピザのお兄ちゃんに教えてもらったお薦めエリアから、幾つかピックアッ
プして明日から行動することにした。
(超有名なミシシッピームーン10aのあるポケットウオールは心ないクライマーのため、
今はクライミング禁止になってしまったそうだ。)

★【9/21】★
今日も別行動。僕たちはまたマザーロード、Sさん(彼女は今日が最終日)と親方はド
ライブバイへ・・・
僕はまたFORTY・・・をトライ、しぶいヌンチャクのチェックと出来なかったムーブを固
めに行く。長いスリングは固く締まっている物が多く、結局カラビナ1ヶ所しか交換で
きなかった。連日の疲れが出たのか次の本気トライでは半分も登れず、今日は宇宙が見
えなかった。Sさんの話では、ドライブバイはミニマザーロードのようですごくいい所
だったらしい。

★【9/22】★
今日は明け方からすごい雨、もちろんオフです。Sさんはもう帰国しないと行けない。
みんなで空港まで送っていった。僕は凄く良いクライミングをしていたな〜と思うけど、
本人はかなり不完全燃焼のようだ。
実質、6日間のクライミングでは無理もないかもしれない。
彼女がいなくなってしまって男3人、少し寂しい。

★【9/23】★
昨日は丸1日ずっと雨だったけど、いい天気になった。ぐっと、朝は冷え込み一気に秋
がやって来たようだ。
午前中はK君の希望でミリタリーウオールへ、GUNG-HO(四つ星、勇者達という意味らしい)
を何度もトライするが、今一歩力が及ばなかった。
朝からレンジャーの人が10人ぐらい、昨日の雨でクライミング禁止のエリアが大丈夫
かどうか見に来ていた。
午後からスカイブリッジリッジへ、ここはクラックなど、トラデイショナルなルートが
多いがスポーツルートも三ツ星が多い。ここで親方が11Cをマスター  OS。今まで岩場
の経験が少なくて・・・といっていたけど、アレは謙遜でした。ランナウトしている核
心部で、ボルトに手が届かなかったが落ちるに落ちられず、粘りに粘って突破されました。
お見事。僕は明日に賭けるつもりで今日もレストにしました。

★【9/24】★
最終日
午前中はドライブバイへ、Sさんのいってたとおり、とてもいい岩場でした。僕は後半
へ体力を残すために軽く流してしまったけど、時間があればもっと登りこみたいエリア
でした。昼から、みんなに僕のわがままを聞いてもらって(FORTY・・・の最終トライ
をするため)もう一度マザーロードへ・・・集中するためしばらくぼーっとして何も
考えないようにした。
3時過ぎ、長い旅の出発だ。最初の10メートルは楽勝、つづく140度最初の核心も
結構楽に感じる。やっぱり2日レストしたのが良かったのか?140度の壁を越えてか
ら、まだムーブの固まってなかったレッジに這い上がる。立ち上がるためのホールドは
パンプしていたのでどれも絶望的に悪く感じたけど、偶然クラックに押しつけているニ
ーバーが効いているのか、だんだん呼吸が落ち着いてきて冷静さを取り戻してきた。そ
こからの10メートルはこの間の雨のせいか少し砂が浮いていたけど、もうここで落ち
るわけには行かない。最後のレストの後大きく叫んで、途中で足ブラになってしまった
けど、奇跡的に指は開かなかった。頭の中のどこかで「絶対落ちるな!」と言う声がリ
フレインして、ほぼ無意識の状態で手足を動かし、終了点にクリップしていた。
自分ではすごく長い時間に感じたけどK君にきくと15分ぐらいだったようだ。遠くか
ら、僕が足ブラになった所を見ていたアメリカ人クライマーがよってきて祝福してくれ
た。地球を半周旅してきてこのルートに出会って本当に良かった。2年前、アメリカツ
アー(アメホ、メイプル、ライフル)に行ったときは打ち込んだルートはどこも登れず、
肩まで壊してしまったが、やっと報われた気がした。つき合ってくれた仲間に感謝。
K君もこの後、よれよれながらも最後の力を振り絞りKICK ME IN THE JIMMIE 12aをRP。
有終の美を飾った。

★【岩場紹介】★
マザーロードだけでも登りに行く価値は充分あるけど、他のエリアはこじんまりしていて
日本の岩場ににている気がした。エリアは100ぐらい、ルート数も1000本以上あるけ
どスポーツルートは355本、思ったより少ないけどクオリテイは高く、世界的にも珍しい
砂岩の形状はフリクションもよく思い切りムーブに集中できる。
内藤さん、伸介さんは登りやすいといってたけど、11、12台は他のアメリカのエリア
よりも辛く感じた。
日本とほぼ同じ気候で、雨も数回降った。日本人には誰も会わなかったけど、地元の人は
皆親切でフレンドリーだった。ミゲルピザのキャンプ場に泊まっていれば、クライマーの
友達が出来たかも知れない。
推薦するルートはあまりにも多いので行かれる方は僕に直接聞いて下さい。
必ず素晴らしいツアーになることを保証します。


★【買い物】★
大きなスーパーはレキシントン以外にスタントン(高速で20分ぐらい)にもある。
ナチュラルブリッジには、おばあちゃんのやっている土産物屋さんに少しだけ、パン、
野菜、卵、牛乳などが売っている。酒はトレントフォールの隣にC&W(日曜休み)と
いうリカーショップがある。
GSはどこも現金しか使えなかった。(カード不可)
レキシントンのショップはつぶれていたし、観光するところもなくお金はあんまり使わ
ないで済む。
トポ、大抵のギヤはミゲルピザ(月、火曜休み)で手に入るが、靴は無い。